警棒についての説明を分かりやすく説明されている参考文献がありました。この内容を読んだ時、警備の講習会に行って勉強した時より、よく理解する事ができました。早速、三重県にあるSPnet社の米川正洋社長に転載許可を御願いしましたらこころよくお受けしていただきましたのでここにご紹介いたします。

「安全を護り 安心を与える」技能集団  http://www.spnet.biz/index.htm

11.護身用具・警棒について

一般人に認められる警棒と警備員に認められる警棒

まず、次の6本の警棒を見てください。

この中で「一般人が携帯してもよいもの」と「警備員が業務中に携帯してもよいもの」を選んでください。
ここで、警備員とは「他人の需要に基づいて、他人のために、営業として警備を行う警備業者に、雇われている警備員」です。
「一般人」とは自社の警備に雇った自社警備員・警備業者に雇われていても警備業務を行わない従業員・警備業とは関係のない者です。
警備員でも警備業務を離れた場合は「一般人」です。

さて、答えです。
一般人は①~⑥のすべてがOKです。
警備員は③しか業務中に携帯することはできません。

⑤は平成31年6月30日まで警備員でもOKです。
※これは平成21年に警備員の警棒規格が変わったための経過措置です。
   施行日の平成21年7月1日より以前に、⑤を護身用具として届け出てある場合に平成31年6月30日まで使用できます。
   今から⑤を届けても使用できません。

一般人に対する制限

警棒についての一般人に対する制限は軽犯罪法で定められています。

次の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。(軽犯罪法1条)
②正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

警棒はこれに該ります。

ここで「携帯」とは手に持ったり身につけていたりするだけではなく、それに近い状態も含まれます。
仕事中に自分の机の引き出しに入れる。
運転中に車のダッシュボードやシートの下に入れる。
歩行中に鞄の中に入れる。
すべて「携帯」になります。
簡単に言えば「いつでも使える状態におくこと」が携帯です。

次に「隠して携帯する」の意味です。

ポケットに入れる、ホルスターで上着の下に装着する、鞄の中に入れる、机の引き出し・ダッシュボードに入れる。
これらが「隠して携帯すること」です。
では、警棒を「隠さないで他人から見えるように」携帯した場合はどうでしょうか?。
警棒を伸ばして手に持つ、ベルトにはさむ、背中に背負うなどなど。

これに対する警視庁の解釈・判例は見当たりません。

私が法律を勉強していた頃に刑法の先生がこう言っていました。
『堂々と他人から見えるように携帯していれば、回りの者は危険を察知することができる。しかし、隠し持っていた場合はその危険を察知することができない。
軽犯罪法で「隠し持つこと」を罰するのはこのためである。
他人から見えるように携帯すれば軽犯罪法に抵触しない。』

軽犯罪法の明文に「隠して携帯していた」とある以上、「他人から見えるようにして携帯すること」を含めることは解釈論的に無理があるでしょう。
刑法では拡張解釈は認められるが類推解釈は認められていません。
類推解釈による裁判や処分は憲法31条に反して違憲・無効です。

あなたが警棒を手に持って歩いていたら、必ず警察に通報されてパトカーが飛んできます。
警察官はあなたに職務質問をして警察署に任意同行します。
警察署でいろいろ調べられた後、警察官はあなたが持っていた警棒を任意提出・廃棄することを勧めます。
ここまでは警察官に違法行為はありません。
職務質問・任意同行・任意取調べ・任意提出勧告は違法ではありません。
あなたが任意提出を拒んだ場合に警察官が「身柄逮捕」や「警棒の差押」の強制力を行使した場合に初めて違憲無効を争うことができます。

以上のことは「軽犯罪法の解釈」についてだけのことです。
他の法律や条例で「警棒を他人から見えるようにして持ち歩くこと」が禁じられているかも知れません。→→※大阪府条例で禁止されています( 2011.12.05付記)
また、警棒を手に持って歩いていれば回りの人に恐怖感を与えます。
「他人に恐怖感を与えること」が他の法律・条例の解釈で罰せられるかも知れません。
この件に関して私は「警棒を他人に見えるようにして持ち歩くこと」を教唆・幇助しているのでもありません。
軽犯罪法1条2号の解釈についての私見を述べているだけです。
その点をご理解ください。

わが国では治安が警察によって充分護られています。
我々は警棒を手に持って歩く必要はないのです。
心配なら警備員を雇いましょう。

警備員に対する制限

警備員が業務中に携帯できる護身用具は警備業法で次のように制限されています。

①使用できる護身用具が制限されている。
a.都道府県公安委員会規則で護身用具の携帯を禁止・制限できる。(警備業法17条1項)
b.警棒の長さ・重さなど(各都道府県公安委員会規則)

②届け出なければならない。
a.携帯する護身用具は届出なければならない。(警備業法17条2項)
b.届け出なかった場合は30万円以下の罰金(警備業法58条3号)
c.届出は定められた様式で使用する前日までに届け出る(警備業法施行規則28条1項・2項)

つまり、警備員は都道府県公安委員会の定める護身用具を予め届け出た場合に使用できるのです。
護身用具に関して警備員は一般人より制限を受けているのです。

これは、警備員に破壊力の大きい護身用具を持たせると、
「一般人の権利・ 自由を侵害し、個人・団体の正当な活動に干渉する」危険があるからです。(警備業法15条)
交通誘導をする警備員が腰に警棒をぶら下げていたら、停止の合図に従わないと警棒で叩かれるかも知れないと思います。
一般人が警備員を見てこう思うことが「警備員が個人の正当な活動に干渉した」ことになるのです。
しかし、警備員は一般人より危険にさらされる仕事についています。
深夜の巡回・現金輸送・ボディガード、丸腰で仕事をしなさいと言うのは少し酷。
そこで、必要最小限の護身用具使用を警備員に認めたのです。

警備員に認められる護身用具(公安委員会規則)

【1】警棒の長さ・重さに対する制限

各都道府県により地域状況が違うので、都道府県によって制限の内容が異なっても構いません。
ただし、現在のところ全国一律です。

長さ重さ
30㎝を超え~40㎝以下160g以下
40㎝を超え~50㎝以下220g以下
50㎝を超え~60㎝以下280g以下
60㎝を超え~70㎝以下340g以下
70㎝を超え~80㎝以下400g以下
80㎝を超え~90㎝以下460g以下

※円棒であること。鋭利な部分がないこと。材質の制限なし。

もう一度警棒の写真を見てください。
この制限をクリアーできるのは③だけなのです。

⑤は従来使われていた警棒です。
上の都道府県公安委員会規則は平成21年7月1日に施行されました。
それまでは「長さ60㎝以下・直径3㎝以下・重さ320g以下の円棒」という制限でした。
これに該るのが⑤です。
新基準のもとでも、経過措置として「新基準施行より10年間は使用できる」と定められています。

最近、警棒の代わりになる誘導灯が売られています。→→こちら
「これが誘導灯なのか警棒なのか」は公安委員会の判断によります。
警棒に該れば「35㎝・350g」と「44㎝・450g」ですから警備員の警棒制限に引っかかります。
長い懐中電灯(タクティカルライト)も同様です。
「警棒とはライトのついていないもの」という定めはないので、多分警棒に該るでしょう。
警備会社が導入する場合は公安委員会にお伺いを立てなければなりませんね。

【2】警棒使用が禁止される場合

部隊を編成して警備する場合。
ただし、競輪場のような公営競技場では使用可。

【3】警棒以外に使用できる護身用具

a.非金属の盾(大きさ・重さ制限なし)
b.刺股(長さ・重さ・形・素材の制限なし)→→刺股(サスマタ)
c.携帯することにより人に著しく不安を覚えさせるおそれがなく、かつ、人の身体に重大な害を加えるおそれがないもの。
※防弾チョッキ・防刃チョッキ・防刃手袋・シールド付きヘルメットなど。
※催涙スプレー・スタンガンなどは不可。
d.警杖→【4】

【4】警杖に対する制限

警杖とは長い棒のことです。
これについても長さと重さの制限と使用禁止の場合が定められています。

長さ重さ
90㎝を超え~100㎝以下510g以下
100㎝を超え~110㎝以下570g以下
110㎝を超え~120㎝以下630g以下
120㎝を超え~130㎝以下690g以下

警杖を使用できるのは、
a.機械警備の機動員(現場に急行する隊員・ビート)
b.核燃料運搬警備・貴重品運搬警備
c.空港、原子力発電所・原子力関係施設、大使館・領事館・その他の外交関係施設、国会関係施設・政府関係施設、
石油関係施設・電力関係施設、ガス関係施設、水道関係施設、など。
簡単にいえば、「一般の警備員は警杖など関係なし」となります。

警備員に許される最強の護身用具は「原子力発電所や国会の警備」での130㎝以下・690g以下の棒。
江戸時代の岡っ引きと同じですね。
警備員は「歩く盾」なのです。

【5】警備員が一般人より優遇されている点

このように警備員は護身用具使用について一般人より制限されています。
しかし、警備員が一般人より優遇されている点が一つだけあります。
分かりますか?

警備員は警棒を「隠して携帯することができる」のです。
隠して携帯しても軽犯罪法で罰せられることはないのです。
もちろん、それは警備業務を行う場合です。
通勤途中は警備業務中ではないので、仕事が終わったら軽犯罪法が適用されます。

『質問です!』
なんですか?
『警備員が通勤する場合、仕事で使う警棒をどうやって運ぶのですか?
鞄や車のダッシュボードに入れておけば軽犯罪法で「隠して携帯した」ことになりますヨ!』

その通りです。
仕事場に置いておくか、他人から見えるように携帯するしかないですね。
他人から見えるように携帯すれば警察官の職務質問を覚悟しましょう。
なお、軽犯罪法で「隠し持つ」ことが罰せられるのは「正当な理由がない場合」です。
「警備員で仕事で使うものです」と言えば許してもらえるかもしれませんネ。

事前の届け出について

警備員が警棒などの護身用具を使う場合は公安委員会に届け出なければなりません。
上の写真のASP-F26・エァウエイトは警備員が使用できる警棒ですが、あなたの会社がその警棒を届け出てなければあなたが使用することはできません。

この届出の際にハードルがあります。
警備業は警備業法・警備業法施行規則・公安委員会規則で縛られますが、もう一つ影の法律があります。
それは「警視庁の警備業法についての解釈運用基準」です。

現在実施されている警視庁の解釈・運用基準第15-2・3には次のように定められています。

(規則の運用に当たっての留意事項)

護身用具規則の運用に当たっては、次の点に留意するものとする。
(1) 護身用具の携帯については、護身用具規則により携帯が制限されていない場合であっても、
    昼間、携帯する必要性の乏しい場合などには携帯しないように指導すること。
(2) 護身用具規則でその携帯を禁止していない護身用具であっても、
    特定の警備業者の警備員がそれを用いて法第15条の規定に違反する行為を行ったような場合には、
    法第48条の規定により、その警備業者に対しその護身用具の使用を一定期間禁止するなどの指示を行うなど適切な措置をとること。

(届出に当たっての留意事項)

(1) 府令別記様式第10号の「使用基準」欄には、例えば、次のように記載させるものとする。
ア夜間の巡回時に携帯する。
イ不審者に襲撃された場合に、専ら防御のために使用する。

簡単に言えば、
・昼間は使わせるな。
・夜間でも「使う必要」をチェックしてできるだけ使わせないようにせよ。
・警備員が警棒を携帯して一般人の権利・自由に干渉したことがある場合は使わせないように指導せよ。
・届出用紙の「使用基準」には「夜間の巡回」・「不審者に襲撃された場合に防御するため」と書かせよ。
※裏を返せば「そうでない場合は届出を阻止せよ」ということになりますね。

警備員が制限に反する護身用具を使った場合

警備員が護身用具の制限に反した場合はどうなるのでしょう。
たとえば、長さ・重さの制限を超えた警棒を使った場合、長さ・重さは制限内だけれど会社の届け出てない警棒を使った場合。

警備業法は「護身用具の届け出違反は30万円以下の罰金」と定めています。(警備業法58条3号)
警備業法施行規則・都道府県公安委員会規則には罰則がありません。
この点から言えば、護身用具の制限を定める公安委員会規則に反しても罰則は適用されません。

しかし、「警備員が届け出てない警棒を使った」ということは、
「その警棒に関して届け出ていなかった」ことになり、届け出違反として30万円の罰金になる可能性があります。

また、罰金とならなくても警備業法に違反したことになりますから、警備業者の欠格事由にあたり営業停止・認定取り消しになる可能性があります。
制限違反の警棒を使った警備員自身には罰則の適用はありませんが、警備業法に違反したことになり、警備員の欠格事由にあたる可能性があります。

どんな警棒を選べばよいのか

警棒は使い捨て

信頼性ならASPに勝るものはありません。
ASPはFBIやシークレットサービス、各国警察機関が採用している警棒です。→→ASPについて

ただし、「警棒は使い捨て」ということを知っておいてください。
新任教育で護身用具の取扱を教えます。
あるとき、木製の警杖を凶器に見立ててそれを警棒で払う訓練をしました。
ノーベルの警棒で木製の警杖を払ったら簡単に曲がってしまいました。
世界一のASPでも同様のことが起こるでしょう。
高価なASPですからそれを試すことはしませんでしたが…。

コストパフォーマンスに優れているのはKANTASのナイロンファイバー製の警棒です。(写真⑥)
KANTASは台湾のメーカーです。値段も2000円以下で頑丈です。
警備員の使用制限を超えますが、短く切断して長さ・重さの制限内にすればベストでしょう。

写真下がこのメーカーのトンファです。
ポリス映画でよく登場します。

このトンファは61.5㎝・610gですので警備員の警棒制限に引っかかります。
その前に、「円棒」に引っかかるでしょうが。

なお、販売店の公表している長さ・重さと現物の長さ・重さは異なっている場合があります。
届け出は現物の長さ・重さで行いますので、販売店の数値を鵜呑みにしないで実物を手に入れて実測してください。

片手で振り回せること

写真に写っているノートはA4です。
①ASP-F31の長さが実感できますか?
この長さと重さになると剣道をやるときのように両手で持たなければなりません。

②ASP-F26も日本人の腕力では片手で振り回すことに無理があります。
また、少々長すぎます。
屋内で使う場合に適していません。

④ASP-F21が重さ・長さともベストマッチングです。
警備員護身用具の制限を超えますが、一般人として持つのならこれが一番よいでしょう。

⑤ノーベル・旧規格は短すぎます。

なお、SPnet の警棒は「③ASP-F26・エァウエイト」を予定しています。

警棒は護身用具

剣道をやっていた者と徒手格闘技をやっていた者とでは警棒のとらえ方が異なります。
剣道では短刀、徒手格闘技では腕の延長です。
空手には「突きの間合い」と「蹴りの間合い」があります。
警棒を持った手を伸ばすと「脚を伸ばした長さ」となり「蹴りの間合い」になります。
警棒を持てば相手の蹴りと互角に闘えることになります。

攻撃してくる相手を警棒を使って倒す必要はありません。
相手の腕や脚に警棒が当たれば、それだけで相手は攻撃意欲を失います。
相手がおとなしくなったり逃げたりすれば、それで自分と顧客を護れます。

相手の肩(鎖骨)を打って相手を倒そうとしてはいけません。
近寄ればそれだけ危険になるし、正当防衛の程度を超えて過剰防衛となってしまいます。

警棒はあくまで護身用具であり、警備員の職務は顧客を護ることなのです。
暴漢を捕まえることは警察官の職務です。

警棒を使えない警備員

危機意識のないオッチャン警備員ではいけません。
腰に着けた警棒を使い切る技術と相手に立ち向かう闘争心が必要です。
日頃から場面を想定して訓練しておきましょう。

警備員が警棒を腰に着けるのは「よしッ!今日も顧客を護るぞ!」という決意の現れなのです。